聖マリアンナ医科大学

〒241-0811 横浜市旭区矢指町1197-1

電話045-366-1111(代表)

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脳神経外科

診療科の紹介(特色)

入院診療内容は救命救急センターが併設されているため、重症の脳血管障害、頭部外傷が中心ですが、一般病棟と連係しているので、初期治療のみならず慢性期に移行する直前まで一貫した治療が可能です。脳腫瘍、小児中枢神経系疾患、脊髄脊椎疾患などの治療を含め、基本的方針として、より侵襲の少ない方法論を選択しています。脳や脊髄についての外科的治療を目的にした診療科であるために、すでに専門的と理解される傾向にありますが、外来は、頭痛、頭部打撲、四肢の麻痺やしびれ、感覚傷害などの神経疾患全般について診察を行っており、必要に応じて他科に紹介しています。

スタッフ紹介

スタッフ紹介は聖マリアンナ医科大学のスタッフ紹介をご覧ください。

取り扱い症例(症例数・治療成績)

年間手術合計 286例
脳腫瘍(脊髄腫瘍含む) 25件
動脈瘤クリッピング術 42件
頭部外傷 16件
慢性硬膜下血腫 49件
脳出血 18件
微小血管減圧術 4件
脳室腹腔短絡術 14件
血管内治療 40件
脊椎疾患 12件
(平成28年1月〜12月)

外来受診について

午前中のみの受付けで、担当は担当医表をご覧ください。

神経膠腫のあらましとその治療法

神経膠腫とは

脳を構成する細胞(神経細胞、星細胞、乏突起細胞など)のうち、神経細胞以外の細胞を起源とする腫瘍のことを総称して神経膠腫といいます。細かく分類されていて、それぞれ生物学的性質が異なりますので、ここでは総論を記載します。

症状は、進行の速い腫瘍では脳の局所症状(脳は部位別に担当する機能が異なりますが、相当する機能異常を局所症状といいます)がみられることがあります。一方、進行速度の遅い腫瘍では、腫瘍がかなり大きくなるまで症状のないこともしばしばあります。その際の症状はてんかん発作(様々なタイプがあって、必ずしも全身痙攣 発作とは限りません)や頭痛です。

診断はCT、 MRIといった画像診断が用いられます。手術を前提にした場合、脳血管撮影を行うこともありますが最近はむしろ行わない傾向にあります。多くはこれらの画像診断である程度の質的診断までできます。しかしながら、最終診断は病理診断となります。これは腫瘍を部分的ないし全摘出して、顕微鏡標本を作成して診断します。性質を正しく知るために、免疫組織染色や電子顕微鏡といった手法も使用することがあり、その場合、ある程度の日数を要します。

治療について、まずは外科的摘出です。患部を可及的に取り出します。このとき注意しなければならないことは、後述するように、機能脱落を最小限に食い止めることです。取り出せない部分に対しては放射線治療や抗がん剤治療を追加します。これらの追加療法は副作用がつきものの治療ですので、できることなら避けたいものです。腫瘍の性質によってはこれらの治療法が要らないこともあります。したがって、手術をする意味は摘出ばかりでなく、腫瘍の性質を正しく知るという意味があるのです。病理診断なしに放射線治療や抗がん剤などを用いた化学療法を行うこともありますが、極めて少ないことです。

1一般的開頭法

ごく少数の例外を除き全身麻酔の適用です。頭部の固定は馬蹄形のヘッドレストが使用されることもありますが、通常、三点、ないし四点のピンを用いた頭蓋固定装置で頭部を固定します。頭皮の消毒処置ののち、画像診断に基づく開頭予定部位にしたがい頭皮に切開部位をマーキングします。
頭皮は血流が豊富で出血が多いために、止血を目的にエピネフリン入り生理食塩水、またはキシロカインの皮下注射が行われることもあります。血流が豊富なために頭皮の壊死や縫合不全は発生しにくいことになりますが、それでも浅側頭動脈や後頭動脈の走行に留意し、虚血防止のためにこれらを温存するように皮膚弁を作成します。
皮膚弁は帽状腱膜下で剥離し、骨膜を残します。骨切開部位のみ骨膜、あるいは筋、筋膜を剥離し、複数個の穿頭を行います。硬膜を剥離子で骨から剥がしておいて、穿頭部を連結するようにクラニオトームで開頭し、遊離骨弁として骨を除去します。単一の穿頭をもとに開頭してもよいのですが、特に高齢者では骨と硬膜との癒着が強いため、硬膜を損傷しやすいので注意します。
骨弁は抗菌剤入り生理食塩水に浸して保存します。硬膜の止血は最小限として、凝固止血による硬膜の収縮を予防します。硬膜切開はくも膜、脳表を傷つけぬように、フックなどでわずかに持ち上げておいて切開を行います。硬膜切開法について特にルールはありません。開頭範囲を充分に利用できるように開放します。
病変の処置を終了したら、止血を確認後、硬膜を密に縫合します。縫合糸以外、人工物の使用は避けます。骨弁はチタン製プレートで固定し、以後、軟部組織を吸収糸で順層的に縫合します。表皮はナイロン糸、またはステプラーを用います。いずれにせよ断端が密着していて、わずかにせり上がるぐらいがよいようです。
以上のの手術における危険性は低いのですが、硬膜の損傷や、これに伴う脳、あるいは脳表の血管の損傷を考えておく必要があります。発生率は1%弱と想定されます。手術による感染の発生率は1%に満たないものであり、多くは髄膜炎(かつて脳膜炎といった)で抗生物質により完治します。ただし、頭皮やその下部に感染が起こると非常に厄介で、骨を除去する手術、さらに感染が治まったあと、人工骨を入れる手術などが必要になります。一般に感染は術後3-4日で発熱、頭痛、局所の腫れなどの症状で発症します。したがって術後1週間を経て、これらの症状がない場合には感染の問題をクリアーしたと考えてよいのです。頭皮の感染はその後に発生することもありますが、現在では極めてまれで、通常発生しません。

2神経膠腫摘出術

脳が他の臓器と最も異なる点は各部位によって、それぞれ異なった機能を有することです。たとえば脳の中央部には手足の運動と感覚の中枢がありますし、後頭葉という大脳の後半部には視覚の中枢があります。一般の腫瘍外科手術においては腫瘍細胞の存在しない安全域を取ってある程度の拡大切除を行うことが通例です。ところが脳実質を摘出する場合、拡大切除は常に機能喪失というリスクを伴っています。神経膠腫はしばしば進行した状態で見出され、運動領や視覚領、言語中枢など機能的に重要な部位(エローケントエリアという)を侵していることもまれではありません。画像診断では浮腫と区別できない部位にも正常細胞に混じって腫瘍細胞が存在します。このような場合、全摘出を試みることは日常生活上の質(Quality of Life、 QOL)の低下に直結します。つまり、ハンデイキャップを背負って生活しなければならないのです。したがって手術治療は可及的摘出となり、残存した腫瘍細胞の治療は放射線照射や化学療法に委ねることになります。しかしながら、どこまでが摘出可能であるのかを判断することは必ずしも容易ではありません。少なくともCTやMRIで造影剤による増強効果のみられる場合、この部分は腫瘍細胞が密に存在し、正常の神経組織は少ないので、日常生活上の質(QOL)を低下させることなく、腫瘍細胞を極力減らすという理念のもとで摘出術を行うことができます。
また、実際にエローケントエリアの障害を示唆する徴候が軽微であればエローケントエリアの腫瘍摘出術も可能で、超音波メスなどの有用性が知られています。切除可能な部位に腫瘍があれば、造影剤の増強効果の有無にかかわらず摘出することが望ましく、前頭葉切除術、側頭葉切除術などが適用されます。

3手術

1)術後出血
神経膠腫は一部の例外を除けば血管に富むことはありません。したがって術中出血に苦労することはなく、術後、摘出部位に出血して、再手術を要することは通常ありません。なかには血管豊富な神経膠腫もあり、摘出に際し、ときに輸血が必要なこともあります。つまり腫瘍に触れば出血することになり、血管豊富な部分(CTやMRIで造影剤による増強効果のみられる部分)は摘出しなければ、出血のコントロールは難しいのです。どうしてもこれ以上の摘出は機能的脱落症状(後遺症、あるいは生命に対する危険)を残すと考えた場合には、丹念に止血操作を繰り返します。このような場合が術後出血をきたしやすいのです。一般に再手術を必要とする術後出血は5%前後と報告されていますが、神経膠腫が部分摘出に終わった場合にはさらに高率です。

2)術後感染
一般的開頭法の項に記載しましたので省略します。

髄膜腫のあらましとその治療法

髄膜腫は脳を包む膜から発生します。原因はよく判っていませんが、遺伝子が関係するかもしれません。頻度は全脳腫瘍の約27%です。欧米のデータを参考にすると、脳腫瘍の発生頻度は人口10万人あたり1年間に14人ですので、横浜市の人口(約370万人)を考えると、横浜市内で年間に140人の髄膜腫患者が発生することになります。しかし実際にはそれほど多くありません。性質は良性で、時に悪性髄膜腫がみられます。極めてまれには肺に転移したという例もありますが、悪性といっても、肺癌やその他の悪性腫瘍と異なり、急速に大きくなることや、転移することは通常ありません。ただし、再発率は明らかに高率です。最近では、CT、 MRIといった検査が比較的簡便にできますので無症状の髄膜腫もしばしばみられます。治療の対象は基本的に症状があるか、近未来に増大して治療が厄介になることが予測される場合のいずれかです。

治療の方法

1.手術摘出
2.ガンマナイフなどの放射線治療

放射線治療を初期治療の方法として用いることもありますが、通常は手術治療の補助と考えています。なぜなら、大きい髄膜腫にはあまり効果がないからです。意図的に取り残した腫瘍や、深部の髄膜腫、超高齢者、手術拒否といった場合に適用を考えます。

手術法の実際

1)一般的開頭法
ごく少数の例外を除き全身麻酔の適用です。頭部の固定は馬蹄形のヘッドレストが使用されることもありますが、通常、三点、ないし四点のピン(釘状の金属)を用いた頭蓋固定装置で頭部を固定します。手術用顕微鏡を使用する機会が多く、微妙な手術操作が多いので、手術中に頭部が動くと危険度が高くなるからです。
頭皮の消毒処置ののち、画像診断に基づく開頭予定部位にしたがい頭皮に切開部位をマーキングします。頭皮は血流が豊富で出血が多いために、止血を目的にエピネフリン入り生理食塩水(血管収縮作用がある)、またはキシロカイン(局所麻酔薬)の皮下注射が行われることもあります。
この事実(血流が多いこと)は逆に頭皮の壊死(腐ること)や縫合不全(縫った皮膚がくっつかないこと)は発生しにくいことになりますが、それでも浅側頭動脈や後頭動脈の走行に留意し、血流が悪くなることを防止するためにこれらを温存するように皮膚弁を作成します。皮膚弁は帽状腱膜下で剥離し、骨膜を残します。骨切開部位のみ骨膜、あるいは筋、筋膜を剥離し、複数個の穿頭(頭蓋骨に径12mm程度の孔を開けること)を行います。
硬膜を剥離子で骨から剥がしておいて、穿頭部を連結するようにクラニオトーム(骨を切る機械)で開頭し、遊離骨弁として骨を除去します。そうすると、髄膜(脳を包む膜)の一つである硬膜という硬く白色の膜が露出されます。単一の穿頭をもとに開頭してもよいのですが、特に高齢者では骨と硬膜との癒着が強いため、硬膜を損傷しやすいので注意が必要です。
骨弁は抗菌剤入り生理食塩水に浸して保存します。硬膜の止血は最小限として、凝固止血による硬膜の収縮を予防します。硬膜切開はくも膜(髄膜の一つで、硬膜直下にある薄い半透明の膜)、脳表を傷つけないように、フックなどでわずかに持ち上げておいて切開を行うとよいと考えています。
硬膜切開法について特にルールはなく、開頭範囲を充分に利用できるように開放します。病変の処置を終了したら、止血を確認後、硬膜を密に縫合します。縫合糸、フィブリンのり(血液成分から作成した接着剤)以外、人工物の使用は避けたほうがよいと思います。
骨弁はチタン製プレートで固定し、以後、軟部組織を吸収糸で順層的に縫合します。表皮はナイロン糸、またはステプラー(一般に商品名ホッチキスとして知られる道具と同様の機械)を用います。いずれにせよ断端が密着していて、わずかにせり上がるぐらいがよく、傷跡が目立ちません。
以上の手術における危険性は低いのですが、硬膜の損傷や、これに伴う脳、あるいは脳表の血管の損傷を考えておく必要があります。発生率は1%と想定されます。手術による感染の発生率は1%に満たないものであり、多くは髄膜炎(かつて脳膜炎といった)で抗生物質により完治することが普通です。
ただし、頭皮やその下部に感染が起こると非常に厄介で、骨を除去する手術、さらに感染が治まったあと、人工骨を入れる手術などが必要になります。一般に感染は術後3-4日で発熱、頭痛、局所の腫れなどの症状で発症します。
したがって術後1週間を経て、これらの症状がない場合には感染の問題をクリアーしたと考えてよいのです。頭皮の感染はその後に発生することもありますが、現在では極めてまれです。

2)髄膜腫摘出術の基本
基本的に髄膜腫は硬膜に付着部位を持ち、脳を圧排して発育し、ときに骨に入り込んで発育します。したがって腫瘍の栄養血管は中硬膜動脈など、外頸動脈の分枝が主であります(頭皮、頭蓋骨、髄膜などへの血液供給は、頚動脈のうち外側の外頸動脈が担当している)。
内頸動脈や椎骨脳底動脈の分枝が栄養血管となることもありますが、多くの場合、副次的です。発育は緩徐で、かなり大きくなるまで症状がないことが一般的です。最近はCTやMRIが行われる機会も増したので、無症候の髄膜腫検出率も増加しました。
治療はガンマナイフやサイバーナイフといった放射線照射法もありますが、基本的に外科的摘出です。この際、腫瘍が入り込んだ骨、付着部位の硬膜、および硬膜内に発育した腫瘍を摘出した場合に全摘出といえます。腫瘍が骨に入り込んでなければ骨は除去しません。
理論的には脳と髄膜腫の間にはくも膜が存在するはずであり、この間で剥離すれば脳を損傷することなく全摘出ができます。実際、小さい髄膜腫は理論通り一塊にして、脳を全く傷つけることなく摘出されます。
しかし、腫瘍が大きく、周囲脳に浮腫(むくみ)を伴う場合など、しばしばくも膜は存在せず、強い癒着がみられます。また、少数ではありますが、悪性髄膜腫では脳への浸潤性発育がみられ、このような場合には摘出操作が難しく、電気凝固器で丹念に止血操作を繰り返しつつ腫瘍を数㎜の小片にして摘出します。
超音波メスも有用で、腫瘍内部をくり抜くようにして腫瘍容積を減少させたのち、周囲脳から剥離をすすめます。元来、髄膜腫は脳組織と性状を異にするので、必ずといってよいほど剥離面を形成することができます。ここで腫瘍表面には比較的太い静脈が張り付いていて、なかには脳実質の拡張した静脈につながっていることがありますので、出血させないように留意します。
一般的な髄膜腫の摘出術の要点は、腫瘍の全貌が観察できるように開頭すること、栄養血管である硬膜動脈を電気凝固しておくこと、腫瘍が付着した硬膜を腫瘍とともに摘出するよう硬膜切開を行うこと、皮質静脈は丁寧に剥離して温存すること、くも膜に沿って剥離操作をすすめ脳表を傷つけぬよう剥離面を作ること、一塊摘出に拘泥しないことであります。硬膜が部分的に欠損するので、同部は代用硬膜(ゴアテックスや骨膜)を用いて閉鎖します。さらに脳脊髄液の漏れ出しを防止する目的でフィブリンのりと呼ばれる血液成分から作った接着剤を使用します。これらの製品での問題点は世界的にみても報告がありません。

3)手術の難しさに影響する因子
摘出の難しさの度合いは、髄膜腫の大きさ、固さ、存在部位、血管の多さに関係します。多くの髄膜腫はかなり大きくなって発見されるので、通常、一塊にして摘出することはできません。なぜなら、そうすることによって、脳を傷つけ、後遺症を残す破目に陥るからです。したがって、小さい固まりに分けて摘出します。固ければ丁寧に切り取る必要があり、大きければ固まりに分ける回数が増えることになり、結局、手術時間が長くなります。
脳の表面に髄膜腫がある場合には、髄膜(脳膜)に付着した部分のすべてが観察できるので、摘出手術は比較的やさしいのです。表面でも、次のような場合は少し厄介です。
静脈洞(硬膜のなかにある大きい静脈)近辺に発生した髄膜腫は静脈洞に入り込んで発育していることがあり、皮質静脈の温存と、静脈洞からの出血制御にも気を配る必要があります。腫瘍が付着した静脈洞壁は摘出するよりも、電気凝固器を用い付着部位を焼灼することによって再発を防止するほうが無難です。静脈洞が腫瘍によって閉塞され、静脈洞に血流がないと判断すれば、静脈洞を含め腫瘍が付着した硬膜はすべて摘出します。
頭蓋底、ことに正中部に腫瘍が発生すると、通常の開頭では、腫瘍に圧迫された脳表しかみえず、全く腫瘍が観察できないこともしばしばあります。また、脳神経や血管を巻き込んで発育することがあり、これらを温存して摘出術を行うことは極めて厄介です。しかも、腫瘍に到達するため、それ相応に脳を引っ張り挙げてスペースをつくる必要があります。あまりに長時間の、あるいは強い力が加われば脳を損傷することになるので、別項に述べる頭蓋底外科手術手技を応用して摘出術を行います。
小片にして摘出することが多いので、最も重要な因子は血管の多さ、つまり、手術中の出血コントロールの問題です。出血が多いと、輸血が必要となり、輸血そのものの問題点も発生します。それ以前に生体に及ぼす侵襲が増大し、各臓器に負担がかかり、術後感染が起こりやすくなります。
また、出血が多ければ、手術部位が血液のために見にくく、判断を鈍らせます。したがって、いかに出血をコントロールするかがキーポイントとなります。先に述べたように、腫瘍を栄養する血管の大部分は腫瘍の硬膜付着部から腫瘍に入り込みます。そこで、まず頭蓋底外科手術手技により、硬膜の外側から腫瘍付着部を観察し、腫瘍の栄養血管を凝固切断します。その後、脳の引っ張り具合をできるだけ少なくするようにして、腫瘍摘出を行います。ときに手術中の手技ではコントロール不能と判断することもあります。極端に栄養血管が発達している場合です。このようなときは、別項にのべる血管内手術手技を適用して、摘出手術を行う直前に栄養血管を塞栓物質で詰めてしまいます。

4)頭蓋底外科手術手技
到達が困難な頭蓋底部に対して、工夫開発された手術法であります。簡単にいうと、通常の開頭法に頭蓋底部の骨切離を追加して、より下方から頭蓋底部を観察する方法です。私どもは腫瘍の存在部位と大きさなどを判断材料として、基本的に4つの方法のうち、1つ、または2つを併用しています。汎用している方法は頭蓋眼窩アプローチ法です。
頭蓋眼窩アプローチ法は、通常の前頭側頭開頭を行ったのち、眼窩上外側の骨を別に切離して眼窩上壁と外側壁を含めて取り出します。こうすると、眼球と視神経が観察されます。蝶形骨小翼と前床突起とよばれる骨組織を取り出すと、より広い術野(手術スペース)が得られ、脳を引っ張ることを少なくして、摘出手術ができます(別紙に詳細が記載してあります)。

次によく使用する到達法が前錐体アプローチです。これも別紙に詳細を示します。

危険性について

1)脳を引っ張るための危険性
脳はある程度の弾力性があって、多少の圧迫に対しては再びもとの状態に復帰します。しかし、引っ張り具合が強いと傷ついてしまいます。そこで引っ張り具合を調節する必要があります。弱い力で引っ張っていても、それが長時間に及べば脳損傷を起こします。このことはちょうど低温火傷に似ています。脳損傷の予防法は、弱い力で、間歇的に脳を引っ張ることであります。このような注意を払っても、術後に脳損傷を起こして出血を伴うことがあり、再手術が必要性なこともあります。その頻度は一般的に5%前後とされますが、私たちの施設では過去10年間に術後再手術を行ったことはありません。一般に再手術は術後6時間以内に行う必要性が生じますので、術後6時間が最初の山といえます。これをクリアーすれば、まず一安心というところです。
例外は出血性素因を持った患者さまです。最近は抗血小板薬、抗凝固薬といった血液を固まりにくくする薬剤を使用している患者さまが比較的多くなってきましたが、そのような患者さまには、あらかじめ内服を中止していただいています。ここで問題にしているのはそのような患者さまではなく、血友病など、先天的に血液が固まりにくい、つまり出血が止まりにくい患者さまのことです。術後6時間以降、24時間ぐらいまで注意が必要です。また、抗がん剤を使用している患者さまにも同じようなことが起こることがあります。

2)髄膜腫周囲の脳や血管損傷の危険性
この問題点を回避するためには腫瘍摘出を行わないことでありますが、それでは手術の目的は達成できません。どうしたらよいでしょうか。基本的には、脳や血管を損傷して、重大な後遺症を残すことが予測されるならば、あえて部分的に腫瘍を残すべきであると考えています。このような状況は腫瘍が脳幹部に強く付着する場合や大きな血管を巻き込んで発育している場合に起こり得ます。残存腫瘍に対しては、経過観察するか、ガンマナイフやサイバーナイフといった放射線照射法の適用を考慮したほうがよいでしょう。
ある程度の脳損傷が予測されても、症状を出さないか、あるいは症状が出現しても回復可能と判断すれば、腫瘍摘出を優先します。なぜなら、根治が望める治療法は手術摘出以外にないからです。

3)髄液漏の危険性
頭蓋底髄膜腫の手術では術後に脳脊髄液が鼻から漏れ出す髄液鼻漏の問題があります。頭蓋内、および脊髄には脳脊髄液という無色透明の液体があって、くも膜と脳表面の間に存在し、正常の状態でおよそ150mlあります。髄膜腫の手術では腫瘍が硬膜(脳の最も外側の膜)に付着しているので、硬膜を含めて摘出します。そうすると、膜の欠損ができますが、通常、代用硬膜を用いて欠損部を補填します。しかし、水まわりの工事が難しいように、どうしても多少の漏れがでてきます。これをいかに防止するかが髄液鼻漏の予防のキーポイントです。骨膜や大腿部の筋膜を使い、さらにフィブリン糊という生体の糊を用い接着させるのですが、さらに脳脊髄液を一時的に体外に排出して、接着部に脳脊髄液が触れない(漏れない)ような方法を併用します。実際には腰椎部のくも膜下腔に細いシリコンチューブを挿入して、無菌的に体外に排出するのです。この間は臥床している必要があり、約4〜7日です。根本的解決法として、時に脳室腹腔シャントという手術が必要になることがあります。

4)水頭症
理由は判然としませんが、頭蓋底外科手術手技を用いて摘出手術を行うような頭蓋底部髄膜腫で、術後約15%の患者さまにシャント手術が必要になることが報告されています。私どもも類似した経験があります。

5)感染の危険性
一般的脳神経外科手術の項に記載しましたので、省略します。

6)輸血についての危険性
現在では輸血をしたための合併症(別紙に詳細が記載してあります)は極めて少ないといえます。例えば、重症の溶血反応は1万回に1回という程度で、かつて問題になった輸血後B型肝炎は24万回に1回とされています。しかし、不具合はゼロではありませんので極力輸血は避けるようにしています。当院では過去15年の経験で、ほとんど輸血を行った記憶がありません。
これに対し、血液から作ったフィブリン糊はほとんどの患者さまに使用しています。この製剤は現在のところ世界的にみても、何かの病気が移ったという報告はありませんのでご安心ください。

脳下垂体腫瘍のあらましとその治療法

1脳下垂体の構造と機能

1脳下垂体の構造と機能
a) 構造
大脳下面の中央部から、ここにぶら下がる(下垂)ように存在する小指の頭ぐらいの大きさの構造物です。脳(視床下部といいます)と脳下垂体をつないでいる索状物を下垂体茎部といいます。脳下垂体の前半分を前葉、後ろを後葉といい、異なった機能をもっています。後葉は直接脳とつながっていて、ある意味では脳の一部であるといえます。しかし、前葉は直接のつながりはありません。ただし、脳からの情報は下垂体門脈系という静脈を介して伝達されます。伝達物質は脳から分泌される特殊なホルモンで、脳下垂体の機能を調節しています(指令を送るといってもよいでしょう)。前葉と後葉の発生源が異なるためにこのような解剖学的相違が起こったと考えられています。前葉はもともと鼻腔や口腔の粘膜と同様の組織と考えられ、下から上にせり上がって、上から降りてきた後葉とくっ付いたとされています。そこで、両者の間には中間部と呼ばれる部分が存在します。脳下垂体は頭蓋内に存在するわけですが、脳の下面でぶらぶらしているのではなく、トルコ鞍という骨の凹みにすっぽりとおさまっていて、動かないようになっています。この凹みに入った脳下垂体を、蓋をするように鞍隔膜という膜(元来はくも膜という脳膜の一つです)が被っています。頭蓋骨の最も内側は硬膜という脳膜(正確には髄膜といいます)が裏打ちするように存在します。トルコ鞍も例外ではありませんので、解剖のときに脳下垂体を取り出して、頭蓋骨の内側からみると、トルコ鞍の中を被っているのは硬膜です。つまり、脳下垂体の外側には硬膜があり、その外側に骨(実は紙のように薄い)があります。さらに外側はというと、蝶形骨洞という副鼻腔で、ここは鼻粘膜で被われた空洞です。

b) 機能
脳からの指令を受けて、次のようなホルモンを分泌しています。
1)前葉から分泌されるホルモン:成長ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、性腺刺激ホルモン、プロラクチンです。これらのホルモンを分泌するように指令する脳のホルモンがあるわけですが、プロラクチンを除き、いずれも分泌を促進するように働きます。プロラクチンだけは分泌を抑制するように働いています。したがって、何がしかの原因で脳(視床下部)の働きが鈍くなると、前葉に指令を送っているホルモンの働きが低下して大部分の前葉から分泌されるホルモンは低下してきますが、プロラクチンだけは逆に高い値を示します。
2)中間部から分泌されるホルモン:メラニン細胞刺激ホルモン(皮膚の色素の調節をします)。
3)後葉から分泌されるホルモン:抗利尿ホルモン(利尿とは尿を出すようにすることですので、尿を出過ぎないように調節しているホルモンです)。因みに、血液は腎臓でろ過され廃用物を尿として体外に排出していますが、その段階で、血液の中の水分は大部分が再吸収されています。ここに働く物質が抗利尿ホルモンです。したがって、抗利尿ホルモンの働きが鈍くなれば尿量が増加します。結果として、水分が足りなくなりますから喉が渇き水分を欲するのです。

2脳下垂体腫瘍

a)機能性脳下垂体腫瘍
先に述べたホルモンはそれぞれを分泌する細胞がある程度決まっています。つまり、成長ホルモンを分泌する細胞、プロラクチン産生細胞、性腺刺激ホルモンを分泌する細胞といった具合に担当が決まっています。
それぞれの細胞のうち、あるホルモンを分泌する細胞が腫瘍化して、生体の制御を放れ、かってに増殖してしまうと、制御の範囲を越えたホルモンが分泌されてしまいます。つまり、ホルモン過剰がおこります。このような腫瘍の代表が次の3つです。

1)プロラクチン(PRL)産生腫瘍
正常の状態でプロラクチンがどのような作用をしているのかいまだ十分に分かっているとはいえません。ただし、このホルモンは別名乳汁分泌ホルモンといわれるように、女性が妊娠するとプロラクチンの血中濃度は段々と高くなります。分娩後、最高値に達して授乳ができる状態にするわけです。
授乳している間は血中プロラクチン値が高値となります。そのような時は月経も停止していることが普通です。そうすると、プロラクチン産生腫瘍ができてプロラクチン値が高くなると、分娩後と同じような状態が起こります。すなわち、生理がとまり、乳汁分泌がおこります。
通常は乳汁分泌には気付かず、乳首を摘むようにしてはじめて分泌があることを認識します。プロラクチン値が高いと生理がきません。当然ながら挙児を希望しても妊娠できません。プロラクチン産生腫瘍で、あまり大きくない場合には不妊が問題となります。高齢者では骨粗しょう症との関係が取りざたされますが、いまだ明瞭な結論は得られていません。

2)成長ホルモン(GH)産生腫瘍
子供が成長するためには、身体のすべてが肥大増大するのではなく成長するポイントがあります。長管骨でいえば骨端線といわれる部分です。成長ホルモンはIGF-1という物質を介して身体の、特に骨の成長に作用します。その他にも多くの作用がありますが、血糖を上昇させる作用は重要です。成長ホルモンの血液内の量はかなり変動します。一日の変動をみると夜間に分泌量が増します。このことは、「寝る子は育つ」という昔からの言い伝えと関係があるかもしれません。また、ストレスがあると高くなります。たとえば、採血をされると考えただけで通常量の4-5倍の値を示すこともあります。そうすると、どの時点が正常値なのかを決めておく必要があります。そこで、早朝空腹時の値を基準にしています。
さて、成長ホルモンが異常に多く分泌されるとどうなるのでしょうか。成長過程にある小児では異常に身体が大きくなってしまいます。これを巨人症といいます。お亡くなりになったプロレスラーを思い起こされる方も多いと思います。身長の伸びに伴った機能の発達がありませんので、不具合が発生します。成人になってから成長ホルモンが異常分泌されると、先端肥大症という状態が起こります。前額部が突出し、鼻が大きくなり、唇は厚く、舌は大きくなります。同時に手足が太く大きくなってしまいます。つまり、身体の末端が肥大してしまうのです。先ほどのプロレスラーもそういえばと思われるに違いありません。外見の変化だけなら問題は少ないのですが、この病気は内臓にも負担がかかります。糖尿病、高血圧になりやすく、不整脈、心臓のポンプ機能の低下を起こすこともあります。このような全身の問題が寿命を縮めてしまうのです。

3)副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)産生腫瘍
副腎皮質ホルモンは生体にとって極めて重要な働きをもっていることは事実ですが、いまだに不明確な点も多々あります。一言でその機能を表現すれば、ストレス(単に精神的ストレスにかぎらず、事故にあったとか、これから手術治療を受けるというような身体への負担が含まれます)を和らげる作用といってよいでしょう。
その他に具体的にいえば、炎症を抑える働き、血糖を上げる働きなどがあります。さて、脳下垂体に副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)産生腫瘍が発生すると、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が異常に分泌されますので、副腎の過剰反応が起こり、多量の副腎皮質ホルモンが血液中に分泌されます。副腎皮質ホルモンが過剰に分泌されるとどうなるのでしょうか。外見的には、中心性肥満といって、顔が丸く(ムーンフェイス、または満月様顔貌といいます)、肩を中心に体幹部分に脂肪がつきます。しかし、腕、足はむしろ細くなってしまいます。皮膚は薄く、透き通るようで、脱毛も起こります。下腹部にはしばしば妊娠線がみられます。内面的には耐糖能が低下して血糖値の上昇が起こり、引き続き糖尿病状態が発生し、全身の病気と考えられます。脳下垂体に副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)産生腫瘍が発生し、上記の状態になった場合、発見者の名前をとってクッシング病といいます。
このような病態はクッシング病以外、つまり脳下垂体の副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)産生腫瘍以外にも発生します。クッシング病ではないけれども、クッシング病と同じ病状を示す一群を区別するために、クッシング症候群という言葉が使われます。身近な例を挙げてみます。副腎皮質ホルモンは炎症を抑制することを主目的に、薬として現在もしばしば使用されます。かつては使用法にも問題があって、副腎皮質ホルモンの使いすぎの状態がときどき起こりました。副腎皮質ホルモン分泌過剰状態と同じことになります。病状は同じですが、副腎皮質ホルモンの使いすぎでこの状態になれば、医原性クッシング症候群と呼称されます。副腎皮質刺激ホルモンは特殊な肺がんなどから分泌されることが稀ながらあります。このときは、異所性副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)産生腫瘍によるクッシング症候群となります。もうひとつ、副腎そのものに副腎皮質ホルモンを分泌する腫瘍ができることがあり、このときも病状は同一でクッシング症候群となります。これらの事実から記憶しなければならないことは、症状は同一であっても原因が異なることです。クッシング症候群は原因を究明しなければ治療に結びつきません。
以上の3つの腫瘍以外にも、甲状腺刺激ホルモン産生腫瘍、性腺刺激ホルモン産生腫瘍などがありますが稀なものです。注意すべきは、これらのホルモン産生腫瘍は腫瘍そのものの大きさが小さい場合にも、血液中のホルモン量が多くなれば症状がでてしまうことです。このことは必ずしも悪いことばかりではありません。逆に、小さいうちに脳下垂体腫瘍を発見できる可能性があり、腫瘍の完治を望むことができるのです。腫瘍が大きくなって、次に述べる非機能性脳下垂体腫瘍と同様に脳下垂体の周りの組織を圧迫して症状を示すようになると、機能性脳下垂体腫瘍の治療は難しくなってしまうのです。理由は後に述べます。

b)非機能性脳下垂体腫瘍
現在測定可能な範囲で、いずれのホルモン活性も呈さない脳下垂体腫瘍を非機能性脳下垂体腫瘍と呼んでいます。相当大きくなるまで無症状です(腫瘍のサイズを表す場合、大きい、小さいという境界は直径10mmです)。一般には周囲脳組織の圧迫症状で発見されます。症状は腫瘍がよほど大きくならない限り次の2点にまとめられます。

1視神経の圧迫
左右の眼球後部に端を発した視神経は頭蓋内に入ると左右がつながって視神経交叉となり、さらに後方に向かうと再び左右に分かれて脳に入り、最終的に後頭葉の内側に達します。ここに見るという機能が存在します。脳下垂体は視神経交叉の真下にありますので、脳下垂体腫瘍ができて上方に進展すると視神経交叉を圧迫します。そうすると、まず視野の外側で上方がみにくくなります。さらに進行すると左右視野の外側がみえなくなります。これを両耳側半盲といいます。視野障害のパターンは様々ですが、典型的な例が前記のようになります。

2脳下垂体自体の圧迫
脳下垂体はトルコ鞍のいう狭い場所に入っていますので、ここに腫瘍ができれば脳下垂体を圧迫してその機能を障害するはずです。しかしながら、脳下垂体腫瘍はゆっくりと大きくなるので代償機能が働き、機能障害は起こりにくいのです。かなり大きい脳下垂体腫瘍でも機能低下症状で腫瘍が発見されることは通常ありません。ただし、男性に比べると女性は比較的発見されやすいのです。なぜなら、閉経前の女性では無月経となりがちなので異常に気付くのです。症状がない場合にも大きい腫瘍では不顕性の機能低下はあり得ます。脳下垂体の不顕性機能低下を見出すために負荷テストが行われます。これには脳下垂体のホルモンを分泌させるようなホルモンやインスリンなどが使用されます。

C)ラトケのう胞
本来は脳下垂体の腫瘍ではありませんが、大きくなって周囲組織を圧迫するという点ではb)の非機能性脳下垂体腫瘍と同様で、基本的に良性疾患です。本体は、前葉と後葉の間を中間部に粘液を分泌する組織が先天的に迷入し(先天的異常)、分泌物がゆっくりと貯留して周囲構造物を圧迫してくるのです。この場合、脳下垂体機能不全症状は少なく、大部分が視野、視力障害で発症します。
最近は偶然の機会に発見されることも多く、経過観察のみ行う患者さまもしばしばあります。つまり、大きくならない症例もあるということです。いずれが大きくなるのか、そうでないのかは経過観察しないとわかりません。症状がある、または出た場合には、以下に記載した方法で摘出を行います。その他の治療選択肢は通常ありません。その際、粘液を分泌する組織は膜状で、のう胞の内側にへばりついていますので、丁寧にはがし取ることが必要です。残せば再発の原因になります。ただし、全摘出を試みると合併症としての髄液鼻漏が起こりやすくなります。

3脳下垂体腫瘍の治療

3脳下垂体腫瘍の治療
治療の目的は腫瘍による圧迫症状を取り去ることと、脳下垂体機能を正常化することです。したがって腫瘍が機能性であるのか、あるいは非機能性であるのかによって治療法の選択肢が変わります。脳下垂体腫瘍はほとんどが良性腫瘍ですので、良性腫瘍は手術摘出が原則です。機能性脳下垂体腫瘍では機能の正常化を目的にしますので、腫瘍細胞を徹底的に取り去るような方法をとります。非機能性脳下垂体腫瘍では圧迫症状をなくすような努力をします。腫瘍を徹底的に取り去ることはしません。なぜなら、腫瘍が存在してもそれが悪さをしなければ良しと考えるからです。というのは、多少腫瘍が残っている場合にも再発頻度は高くないからです。無論、ほんの一部しか摘出しないといった場合はこの限りではありません。後に記載しますが、手術には合併症といって不都合が発生することがあります。腫瘍を徹底的に取り去る方法をとれば、合併症発生率は高くなりますし、ある程度、腫瘍を残せばその率は低いのです。取り返しのつかない合併症が起こっては元も子もありませんので、どこまで摘出するのかという判断が重要になります。こう考えると、先に述べた機能性下垂体腫瘍で大きいサイズのものは、治療が難しいという事実が理解できると思います。機能性下垂体腫瘍の一部は薬物治療もありますが、多くは期待できません。

a) 手術的治療法
1経蝶形骨洞的手術法
全身麻酔を行い、三点固定器で頭部を固定します。このような固定を行わない施設もありますが、私どもは安全度を高めるため、手術中に頭部が動かないように、三本のピンで頭部を固定しています。そののち、鼻腔を含めて頭蓋側面像が観察できるようにポータブルX線透視装置を設置します。
手術法は上口唇を持ち上げ、口唇下に切開を行い、軟部組織を剥離し、鼻孔入口部に達します。鼻中隔軟骨を露出して、これを粘膜下に蝶形骨洞前壁まで剥離し、左右の鼻孔入口底部も剥離します。それぞれの剥離腔を連結し、鼻中隔を基部で切離して左側によけます。粘膜下に手術操作を行うので、鼻腔内で手術処置を行うわけではありません。したがって、手術後に鼻孔から覗き込んでも手術した跡はみることができません。専用の鼻鏡を設置しますが、X線透視を用い鼻鏡の方向を確認します。以後、顕微鏡下の手術となります。蝶形骨洞(副鼻腔という空洞の一つで、鼻腔深部中央にある)の前壁が術野の最深部にみえるので、左右の蝶形骨洞自然孔を確認し、これを足がかりにして前壁を除去します。こうすると正中を見失うことなく安全にトルコ鞍底部に到達できます。トルコ鞍底部の開放は、大きい脳下垂体線腫(径10mm以上)の場合、骨が薄くなっていることが多いので容易です。前後方向の開放範囲はX線透視で確認し、左右方向は海綿静脈洞の一部がみえる程度にとどめます。大部分の脳下垂体線腫は軟らかく、硬膜を切開すると、腫瘍が自然に押し出されてくることもしばしば経験します。トルコ鞍上部に進展した腫瘍は無理に摘出しないことが肝要です。小さい線腫(径10mm以下)の手術適用は、プロラクチン(PRL)、成長ホルモン(GH)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)産生腫瘍など、特殊なホルモンを分泌する機能性腺腫です。この場合、下垂体組織を切開して摘出することが多くなります。ホルモンの正常化が目的ですので、取り残しのないような配慮が必要になります。腫瘍摘出後、術中に脳脊髄液の流出がなければ硬膜の補填は不要で、蝶形骨洞前壁などの骨組織を用いてトルコ鞍底を形成します。脳脊髄液の流出がみられる場合、筋膜や脂肪組織を摘出腔に充填し、フィブリン糊などで接着したのち、トルコ鞍底を形成します。脳脊髄液の漏出が多ければ、腰椎ドレナージを留置して脳脊髄液の体外排出を行います。口唇下の切開部は吸収糸で縫合し、両鼻腔に4日間タンポンを挿入しておきます。腰椎ドレナージとは、水まわりの工事が難しいように、様々な対策を講じてもどうしても多少の髄液漏れが起こる可能性があるので、脳脊髄液を一時的に体外に排出して、接着部に脳脊髄液が触れない(漏れない)ような方法を行います。実際には腰椎部のくも膜下腔に細いシリコンチューブを挿入して、無菌的に体外に排出する方法です。この間(通常4-7日)は臥床している必要があります。

2内視鏡的脳下垂体腫瘍摘出術
内視鏡を使用して、1。とほぼ同様の摘出手術を行いますが、私どもの施設では補助的に使用しています。

3手術治療の合併症
経蝶形骨洞的手術法の危険度
極めて安全な手術ではありますが、場所的には危険度の高い部位であり、次のような合併症が報告されています。

i) 髄液鼻漏
小さい腫瘍では、この危険性はまずありません。大型の腫瘍では手術中の予防策を講じても、術後約10% 前後の頻度で髄液鼻漏(脳脊髄液が鼻から漏れ出すこと)が起こります。治療はすでに述べたように、腰椎ドレナージを設置して保存的に観察します。髄液鼻漏 の量が多い場合、あるいは1週以上持続する場合には再手術を行って、髄液漏れの場所を閉鎖しますが、このような再手術の確率は低く、私どもの200例以上の経験で、再手術を行った症例は2件です。1例は術後3週を経て、鼻をかんだ途端に髄液鼻漏が発生した例で、通常は鼻をかむような行為は極力避けるように指導しています(術後3ヶ月間)。他の1例は、術後2年して、頭部外傷を契機に発症したものです。したがって、一般的な術後注意を遵守することによって、通常は回避できる合併症と考えられます。

ii) 下垂体機能低下
術前に下垂体本来の機能が低下している場合、術後も機能の補充を行う必要があります。具体的には、副腎皮質ホルモンと甲状腺ホルモンを、生理的なホルモン分泌に合わせて、1日1回、または2回に分けて内服します。多くの方が3ヶ月ぐらいで内服薬を減量、または中止できます。
術 前に下垂体機能が低下していない場合にも、腫瘍が大きいときには補充療法を要することが多くなります。下垂体後葉ホルモンである抗利尿ホルモンの分泌が低 下して、尿崩症という、尿量のコントロールがつかない場合には、手術当初、点滴で抗利尿ホルモンを投与し、その後、鼻腔に噴霧するデスモプレシンという薬 物を使用します。この場合には、通例、副腎皮質ホルモンと甲状腺ホルモンの内服が必要です。ただし、手術合併症として視床下部の損傷のないかぎり、デスモ プレシンは3ヶ月ぐらいで中止できますし、副腎皮質ホルモンと甲状腺ホルモンも減量、または中止できます。

iii) ごく稀な合併症
極めて稀に、内頸動脈損傷があります。この場合、致命的なこともあります。そうでなくても内頸動脈海綿静脈洞瘻という厄介な病態を形成することになります。また、腫瘍を突き抜けて脳(視床下部)を損傷したという報告もあります。このような合併症は確かな知識に基づいて、確かな技術で手術が行われれば発生しないはずです。

b) 薬物治療法
非機能性下垂体腫瘍に対し確立された薬物療法はありません。機能性下垂体腫瘍ではある程度の効果が証明された薬物療法があります。最初から薬物治療を行う場合もありますが、通常は手術治療の効果が不十分である場合に行われます。

1) プロラクチン(PRL)産生腫瘍
ブロモクリプチンやその誘導体が用いられます。ドーパミンという物質がプロラクチンの分泌を抑制しますが、これらの薬剤はドーパミンと同様に働きプロラクチン分泌を抑制します。すると、プロラクチン(PRL)産 生腫瘍のサイズも縮小してくるのが普通です。一般に腫瘍が大きければプロラクチンも高値を示します。そのような場合は腫瘍が小さくなる可能性は高いのです。逆に腫瘍の大きさとプロラクチン値が平行しないことがあり、このときはあまり小さくなりません。プロラクチンを産生している細胞の数と関係があるようです。つまり、プロラクチン(PRL)産生腫瘍といいながら、すべての細胞がプロラクチンを産生しているわけではありません。比較的少量の薬剤を4-6週使用すれば、その腫瘍が縮小するか否か判定できます。腫瘍を小さくする必要のない場合、たとえば直径10mm以下の腫瘍で、無月経が問題となっている場合などは手術治療をせずに薬物治療のみで対応できることが少なくありません。この場合、妊娠、挙児を希望され、薬物の催奇形性が問題になることがありますが、幸い催奇形性は現在まで報告がありません。つまりこれらの薬物を服用していても妊娠には問題がないというこ とです。主な副作用として嘔気、嘔吐があり高頻度です。ただし、段々と慣れの現象があるようです。

2) 成長ホルモン(GH)産生腫瘍
治療によって成長ホルモンの値をどこまで低下させればよいのか未だ結論は出ていません。一般に成長ホルモン値が糖負荷テストで0。4 ng/ml以下で、IGF-1が正常値(年齢、性別で異なる)である場合は成長ホルモン(GH)産生腫瘍はコントロール良好と判断されます。手術は成功というわけです。そのほかにもいくつかの基準があります。かつて、術後の基準値が2ng/mlであれば再発はないと考えられていましたが、再発例のあることがわかってきました。私どももそのような例を経験しています。そこで、手術後にいくつかの負荷試験をして治癒基準をきめています(IGF-1の正常化、糖負荷試験後の底値が1ng/ml未満、下垂体機能の温存、臨床的活動性なし等)。
不幸にして手術後治癒に至らない場合、必要に応じて薬物治療を行います。プロラクチン(PRL)産生腫瘍と同様にブロモクリプチンやその誘導体を使用するか、ソマトスタチンアナログを用いるかです。前者は残念ながら思ったほどの効果は得られず、50〜70%程度有効とされています。使用する場合には効果のほどを確かめてから用いています。ソマトスタチンアナログの有効性はさらに高いのですが、月1回の皮下注射が必要で、高価です。最近、IGF-1受容体をブロックする薬剤が臨床使用されており、効果良好のようです。いずれにしても薬物療法単独で先に述べた治癒基準に到達させることはなかなか困難です。

3) 副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)産生腫瘍
いくつかの薬物治療が試みられましたが有効といえる薬物はありません。

c) 放射線療法
これには大別してガンマナイフ、あるいはサイバーナイフという定位的方法と通常の放射線照射があります。ガンマナイフやサイバーナイフは色々な方向から線状のビームを照射し、これらのビームが集約した場所を照射部位とする方法です。したがって、ある一つのビームが通過した部位の放射線量を減量することができ、ビームが集中したある小範囲の放射線量を増量することができますので、従来の合併症であった脱毛や放射線壊死などの放射線障害を防止できます。ただし、集中照射する部位を間違えると大変なことになります。照射された組織は死んでしまうか、機能を失ってしまうからです。ガンマナイフは機能性脳下垂体腫 瘍に有効であるとの報告もありますが、薬物療法と同様にいまだ十分とはいえません。いずれの方法も第一選択の治療法とは考えられません。手術治療や薬物治療では不十分と判断された場合に適用されることが一般的です。私どもはガンマナイフを第一選択とした経験はありませんが、術後10年を経過してこの治療を適用した再発例が3例あります。また、通常の放射線照射を行ったことが1回あります。その腫瘍は非機能性下垂体腫瘍で直径4cm以上あり、頭蓋底に侵潤性に発育していましたので、手術治療で取り去ることができませんでした。そこで、術後、経過観察中に少し大きくなった時期を見計らって通常の放射線照射をおこないました。照射線量は他の脳腫瘍に比較して少なめです。結果は良好で、腫瘍が完全に焼失したわけではありませんが、縮小して、術前にあった視野障害は改善しています。

以上、脳下垂体腫瘍をご理解いただくうえで多少とも参考になれば幸いです。

聴神経腫瘍のあらましとその治療法

聴神経の解剖機能とその障害

聴神経は1つの蝸牛神経(聴覚を担当)と上下あわせて2つの前庭神経(平衡感覚を担当)を併せた総称です。脳幹部の橋と延髄の移行部の外側から出て、すぐ内側にある顔面神経、中間神経とともに内耳道という骨の穴に入り、この穴の行き止まりの部分でさらに分かれ、それぞれ蝸牛と前庭、三半規管に分布します。正確にいえば、聴神経は知覚神経ですので、蝸牛、前庭、三半規管に端を発し、脳幹に入るということになりますが、手術やその他の事項が理解しやすいので便 宜的に上のように述べました。聴神経の機能のうち、前庭神経が担当する平衡感覚について、この神経の障害が急激に起これば「めまい」を感じますが、障害が ゆっくりと進んだ場合には全くといってよいほど症状がでません。それはこの神経系に代償機能が働くからなのです。これに対し、蝸牛神経(聴覚を担当)の障害はその障害速度にかかわらず聴力の低下が起こります。つまり耳が聞こえにくい、聞こえないという症状が出ます。

聴神経腫瘍とは

本態は神経鞘腫という神経周囲の絶縁体の役目をしているシュワン細胞が腫瘍化(正常の制御から逸脱して、かってに増殖すること)したものです。ほとんどの 神経鞘腫は良性で、聴神経腫瘍も例外ではありません。したがって、長年かかってゆっくりと大きくなりますし、転移はありません。聴神経腫瘍の発生母地は蝸 牛神経のこともありますが、大部分は前庭神経にできます。そうすると、腫瘍ができて前庭神経が障害されても、さきに述べたように代償機能が働きますので、 はじめは症状が出ないか、出ても軽いために無視されてしまい、障害が蝸牛神経に及んで、ようやく耳鳴りや聴力の低下に気づきます。この時点でMRIを撮ると、比較的小さい、1cmに満たない大きさの腫瘍が発見されます。小さい腫瘍は大部分が内耳道の中にできます。放置しておきますと、段々大きくなって、内耳道をはみ出し、脳幹の方向に向かって増大します。増大していく場所を小脳橋角部といいます。
さらに大きくなると、橋、延髄という脳幹、また小脳を圧迫してきます。こうなると、聴神経のすぐ内側の顔面神経の機能障害(障害された側の顔の動きが悪くなり、鼻唇溝が浅くなって、眼が閉じにくくなります。また、額にしわを寄せにくくなります。ほとんどの方はこのような症状には気が付きません。)や、舌咽神経、迷走神経、副神経の障害(物が飲み込みにくい、話しづらい、舌が回りにくいといった症状)が加わります。顔面神経のさらに内側の外転神経に障害が及べば物が二重にみえるという複視を伴います。時に舌下神経の麻痺が出て、舌の動きが悪くなります。小脳の症状はふらつく、手が振るえる、物がうまく取れない などの症状です。必ずしも上記の順番で症状が出現するわけではありませんが、おおかたは似通っています。
さらに増大が進むと、脳脊髄液の流通障害が生じ、頭蓋内圧亢進症状(頭痛、嘔気、嘔吐など)が起こります。こうなると命に関わります。
30%ぐらいの患者さまは腫瘍が比較的小さいにもかかわらず、頭蓋内圧亢進症状が出ることがあります。理由は脳脊髄液の中に腫瘍から蛋白質が分泌され、これが脳脊髄液を貯留させる作用があるからと説明されていますが、正確には解明されていません。重要なことは嘔気、嘔吐など明瞭な症状を出さずに慢性的に経 過してしまうことで、慢性的頭蓋内圧亢進は視力の低下を引き起こします。この場合は早急に治療する必要があります。

聴神経腫瘍の治療

1経過観察:聴神経腫瘍が偶然発見されることもありますが、そのような時、MRIで時間を追って大きさを観察することもあります。
2 放射線照射:ガンマナイフ治療という特殊な放射線治療で、開頭する必要がないということが最大の利点です。比較的腫瘍が小さい場合、この治療の有効性は明ら かです。つまり腫瘍が縮小しないまでも大きくならないという効果があります。しかし、5〜10%の患者さまはこの治療でも腫瘍が増大してしまいます。どの患者さまに効果があって、どの患者さまにはそうでないのかは明らかではありません。腫瘍が2cm位あっても効果はありますが、副作用が出る可能性もあります。それは、顔面神経麻痺(約7%)、水頭症(約7%)、三叉神経痛などです。

聴力はこれが残存している場合でも40%ぐらいは障害を受けます。最近はガンマナイフ治療の方法論も進歩して、副作用の発現率が低下しつつありますが、困ったことにガンマナイフ治療で起こった顔面神経や三叉神経の障害は時間とともに改善する傾向がみられません。したがって、問題点がないわけではありません。

3外科治療(手術摘出):腫瘍が大きい場合や、水頭症を併発して治療を急ぐ場合には外科治療以外に方法はありません。具体的方法とその合併症については以下に 記載しましたので参考にして下さい。現状では生命に危険が及ぶことはまずないといってよいほど技術的には進歩しています。余程の出来事(大きな動静脈の損 傷や麻酔の事故など)でもない限り生命の危険性はないといえます。問題はいかに機能を温存できるかという点であります。最新の手術療法を用いても、聴力に関しては、障害された機能を改善させることはできませんし、むしろ悪化してしまいます。ただし、他の脳神経については機能改善が望めます。症状が耳鳴りやごく軽度の聴力低下で、腫瘍が小さい場合には症状を悪化させずに腫瘍摘出することができます。ここで、機能温存と腫瘍の大きさとは極めて深い関係にあることが理解されると思います。一般に次のような温存率が報告されています。

腫瘍の最大径      2cm以上   1〜2cm    1cm以下

顔面神経温存率(形態的)72%     95%      98%

聴力温存率        7%     30%      66%

ここで、顔面神経について、手術直後から機能障害がないのか、あるいは直後は障害があったが時間が経つにつれて機能が改善してきたのかといった問題があります。上記の表は解剖学的に顔面神経が温存された率であり、最終的に顔面神経機能がどのようであったかを表していません。しかしながら、解剖学的に顔面神経が温存された場合、直後は障害があっても、1年以内に約90%の患者さまは一般の方がみて麻痺があるのかないのかわからないぐらいに改善します。したがって、2cm以上の大きい腫瘍でも(72X90=)65% は機能温存が可能ということになります。聴力については腫瘍が小さい場合にのみ温存を期待することができます。私どもの病院の治療成績も上記の表の成績と同等か、むしろ良い結果を得ています。もう一つの問題は腫瘍をどの程度摘出したかという問題です。上記の表は全摘出の結果で、再発は考えなくてよいといえるものです。腫瘍の摘出程度を少なくすればするほど機能温存率は高くなります。このことは当然といえば当然の結果であります。しかし、裏腹に残存した腫瘍がふたたび増大する率も高くなります。具体的にいえば、機能を温存するために腫瘍を残せば、それだけ再発率も高くなります。私どもは腫瘍が大きい場合には、機能温存を優先させて、腫瘍が少し残ってもよいという立場で手術を行っています。現在までこのような方針で再手術を要した患者さまは2人だけですお 1人の患者さまは第1回の手術から13年を経過して再手術を行いました。現在はガンマナイフ治療を併用することも可能です。別のお1人は1回目の手術では 70%ぐらいの摘出率でした。脳幹への癒着の強いことが原因でした。病理学的には悪性ではありませんでしたが増大スピードが速く、1年後には初回手術時の90%ほどの大きさになったので再手術を行い全摘出しました。ただし、若干の失調症状が残存しました。

聴神経腫瘍の手術法

テント下病変手術法の主なものは正中後頭下開頭と外側後頭下開頭です。前者は多くの小脳腫瘍や第四脳室腫瘍などに適用され、バリエーションをもたせて脊髄 空洞症に対する大孔減圧術としても行われます。後者は聴神経腫瘍をはじめとする小脳橋角部腫瘍や椎骨動脈系動脈瘤、三叉神経痛などに用いられ、応用として 片側顔面けいれんの微小血管減圧術があります。
正 中後頭下開頭:腹臥位(うつぶせ)で頭部に固定器を装着後、顎を引くように固定して、項部を伸展させます。外後頭隆起(頸部頭部移行部の骨の隆起)の 3cm上方から第5頸椎棘突起(頚椎の骨の中央後方に突出した部分)のレベルまで正中皮膚切開を行います。軟部組織を正中で切開し、後頭骨から後頭下筋群 を電気メスで剥離して後頭骨を露出する方法が一般的です。当施設では後頭下筋群の上端を正中線に対して直角に交わるように切開し、後頭下筋群の一部を項部 に付着させたまま残すようにしています。こうすると術後の固定性がよく、術野に死腔(余分なスペース)を残しませんので、合併症防止に有効です。開頭法は 一般的開頭法と変わりはなく、ドリルで骨に数箇所の孔を開けたのち、これらを連結するように開頭します。ただし、大孔近辺でのドリル使用は避け、リュエル (骨を削る道具)を用いています。大孔減圧術の場合、後頭下開頭は小さくてよいが、大孔外側部分の骨削除は充分に行います。硬膜は通常Y字 型に切開します。小児では硬膜静脈洞が発達していて、これらを切開することになるので止血処置を準備しておきます。この方法で、小脳の下半分が露出され、大部分の小脳病変に対応できます。必要に応じて第一頚椎の椎弓切除を行い下方の視野を拡大します。第四脳室に到達するためには、正中を剥離し小脳扁桃を左 右に圧排してスペースを作ります。第四脳室の上方に進入するために小脳虫部下半分を切開することもありますが、後遺障害はないと考えて支障ありません。さらに第四脳室を経由して脳幹背側へのアプローチも可能であります。この方法では多くの場合、硬膜閉鎖に際して代用硬膜が必要になります。この場合、脳脊髄 液の漏出がないように配慮します。

外側後頭下開頭
:側臥位(横向き)で、手術部位を見やすくするために頭頂部を低くして固定します。後頭下筋群は一層ずつ剥離して、小後頭神経、後 頭動脈を確認しつつ、鋏で切離する。こうすると解剖学的構造を見失うことなく安全です。ドリルで径1-2cm程度の孔をアステリオン(骨の合わさった部分で、解剖学的に重要な目安となる。アステリオンは側頭骨、頭頂骨、後頭骨の合わさった部分)と、乳様突起(耳のすぐ後ろに出っ張った骨)の内側下方に穿 つ。アステリオンの真下には静脈洞があるので注意が必要です。この静脈を損傷すると致命的なことがあります。硬膜はS状 静脈洞側に翻転します。すると、通常は小脳がやや張り出してくるので、へらで軽く小脳を圧排して脳脊髄液の自然流出をはかります。この時点で、吸引などに よるテント下の急激な減圧は避けるべきです。ある程度の減圧を得てから脳槽を開放すると、容易に脳脊髄液が吸引され、小脳を引っ張りやすくなります。正常 解剖では、小脳橋角部に達すると、尾側には下位脳神経(舌咽、迷走、副神経)がみられ、吻側に向かうと順次、聴神経、三叉神経がみえます。また、深部には 外転神経が波打つように観察される。顔面神経は聴神経の内側にあるので見にくいのです。脈絡叢、小脳片葉を手前に引いて、聴神経の下を覗き込むようする と、顔面神経が脳幹から出てくる場所がみえます。小脳橋角部腫瘍(聴神経腫瘍、三叉神経腫瘍、髄膜腫など)では、すぐに腫瘍を確認することができます。腫 瘍摘出は周囲の神経、血管を充分に確認してから取り掛かります。
聴 神経腫瘍では、聴力、顔面神経機能をいかに温存するかが手術の要点であります。腫瘍が大きい場合には、聴力の温存は難しく、小さい場合にも聴力が残るとは 限りません。顔面神経は通常、腫瘍の裏側にあるので、確認することはできません。スペースが狭く、重要な構造物が周囲に存在しますので、腫瘍を一塊にして 摘出することはできません。ごく小さい固まりにして少しずつ摘出します。出血すれば、その都度止血します。止血法は多種類ありますが、よく使用する方法は 双極凝固という、手術用ピンセットの先端のみ電気が流れ、熱を発生させて蛋白質を変性させる方法です。具体的には、前記の理論で、血管が収縮して血液が流 れなくなるのです。したがって、正常の組織に適用すべきものではありません。正常の組織の虚血をきたし、機能喪失を起こす危険があります。摘出操作を進め る段階で、適時、電気刺激により顔面神経の存在部位を確かめつつ手術を行います。ある程度腫瘍のサイズを減じたところで、内耳道の中にある腫瘍を摘出する ために、内耳道後壁の骨をドリルで削ります。

注意点は、
1周りの組織をドリルの回転に巻き込まないこと、
2ドリルを骨に強く押し付けないこと、
3骨の中の空気を含む部位が開放された場合には、脳脊髄液の漏出を防止する処置を行うこと、
4水をかけて過度の熱を発生させないこと、
5手術前に静脈洞の部位を確かめておくこと
などです。この処置により内耳道の中の腫瘍が摘出され、発生源である前庭神経から剥離することができます。そうすると、次第に残りの腫瘍も摘出しやすく なり、また、顔面神経も確認しやすくなります。最終的に腫瘍が全摘出されますと、顔面神経、蝸牛神経、前庭神経の断端がみえます。

術後合併症について

1)開閉頭に伴う合併症

a) 髄液鼻漏
正 中後頭下開頭ではこの合併症の可能性はありません。外側後頭下開頭で発生の可能性があります。外側後頭下開頭では、乳様突起と呼ばれる部分に開頭が及ぶことがあります。この骨の部位には乳突蜂巣と呼ぶ蜂の巣のような多数の空洞があり、この部分が開放されることになります。脳には脳脊髄液という無色透明の液 体が脳室や脳表面にあって、別の表現を用いると、脳が水に浮いたような状態になっています。脳の手術を行うと、当然ながら脳の膜を開放します。閉頭時には 膜を縫い合わせてきますが、どうしても水が漏れないようには縫合できません。水周りの処置が難しいのと同じです。乳突蜂巣が開放されると、漏れ出した脳脊 髄液が乳突蜂巣に入り込みます。すると、乳突蜂巣は中耳とつながっていて、中耳は鼻とつながっているので、縫合した脳膜の間から漏れ出した脳脊髄液は鼻か らも漏れ出してしまうことになります。脳脊髄液が漏れ出せば、かわりに空気が脳に入り込みます。これは感染の原因となり、髄膜炎を併発することになり、危険です。術後、髄液鼻漏が発生した場合には、腰椎ドレナージという方法で、一時的に脳脊髄液を腰椎部から体外に排出しておいて(その間、脳脊髄液は脳膜の 間から漏れ出さないという理屈で)、自然に脳膜の隙間が閉鎖されることを期待します。1週を経て自然停止が得られなければ、再手術を行って、脳膜を水漏れのないように閉鎖します。
このような事実がわかっているので、通常、乳突蜂巣が開放された場合には同部を閉鎖するような処置を行います。この目的でフィブリン糊という生体の糊が使用されます。したがって、髄液鼻漏の発生率は低く、私どもも最近10年間に1例経験したのみです。幸い、この方も保存的治療で治癒しています。ただし、5%以上という報告もあるので無視はできません。

b) まれな合併症
開頭時に発生する可能性のある合併症として、静脈洞の損傷、硬膜の損傷、小脳の損傷が挙げられます。静脈洞損傷は時に致命的なことがありますが、術 前に血管に関する情報を充分に得ている現在、発生の可能性は極めて低いし、私どもは経験がありません。硬膜損傷は骨に孔を開けるときに発生する可能性があ ります。特に高齢者では骨と硬膜の付着の程度が強いために発生しやすくなります。ただし、後遺症がでることはありません。なぜなら、閉頭時に硬膜形成を行 うからである。小脳損傷の可能性もありますが、通常考えられません。

2)病変の種類によって異なる危険性
病 変の種類によって危険性とその度合いが異なります。一般論をいえば、脳腫瘍の場合、全摘出が行われないか、あるいはできないと術後に血腫を形成しやすく、再手術を要する確率も高くなります。腫瘍性病変、あるいは出血性病変でなければ再手術の可能性は極めて低いといえます。

3)術後感染
一般的には1%以下の確率であると報告されていますが、実際には非常に低いです。私どもの施設では、テント下病変の手術において、過去10年 間に2例の経験があります。この方々はいずれも8時間に及ぶ長時間の腫瘍摘出術であり、術後1-3か月以上経て、毛嚢炎を契機に感染をきたし、骨を除去することになりましたが、幸いに問題点なく治癒しました。つまり、手術時間が長ければ、それだけ感染の機会も多いのです。

退院の目安とその後の療養について
ほとんどの患者さま(96%)が合併症なく、術後10日ぐらい、長くても2週間で退院されます。長くなる理由としてめまいが挙げられます。どうしても前庭神経に手術操作が加わりますので浮遊感、回転感を残ります。ただし、徐々に改 善しますのでご心配に及びません。時間的には数ヶ月かかる方もありますので、長期的展望をもっていただきたく存じます。

聴力について
聴力は先に述べた程度しか残すことができません。しかも、自然回復はほとんど望めませんので、術前にご理解いただきたい重要な事柄です。

顔面神経機能について
顔面神経について、形態的に残っていれば10ヶ月以内に約90% の患者さまが、注意してみなければ分からない程度に回復します。回復を待っている間に顔面神経麻痺のリハビリテーションを行っていただきます。また、まぶたを閉じることができず、そのために角膜潰瘍を起こすことがありますが、この場合は一時的に上下のまぶたを縫って回復するまでふさいでしまいます。あるいは錘(金)を上のまぶたに埋め込んで瞼が下に下がるようにして角膜を保護します。わたしどもが回復した状態と考えても、患者さまの自覚症状は強く、眼を固く閉じる、口を横に引く等の随意運動を行うと麻痺があることが明瞭にわかります。随意運動を行わなくとも、額にしわを寄せることが難しくなります(この機 能が最も回復しにくいのです)。したがって、患者さまは納得のゆく手術という認識をもつことは不可能と思います。私どもは、いかに顔面神経麻痺を起こさ ず、いかに再発させないように摘出するかを考えなければなりません。患者さまとよく話し合い、透明性のある良質な医療を目指したいと考えています。

顔面神経の再建について
顔面神経が形態的に残っていても機能が回復しないことがあります。その場合、次のような方法で再建を行いますが、何時その判断をするか、つまり、再建したほうが良いのか、あるいはさらに待ったほうが良いのかは術後10ヶ月で行います。なぜなら、10ヶ月以上待つと、顔面筋の萎縮が強くなり、神経機能が回復しても元のように動きにくいのです。再建方法として、1顔面神経と同側の舌下神経をつなぐ方法 2顔面神経と同側の副神経をつなぐ方法 3顔面神経と反対側の顔面神経をつなぐ方法などがあります。いずれも一長一短があります。1の方法(顔面神経 と舌下神経をつなぐ方法)は、舌の萎縮を伴いますが、比較的良い方法と考えています。頚神経わなという舌下神経から分岐した神経を用いると舌の萎縮を防止 できます。ただし、機能回復という点では舌下神経そのものに劣ります。ほとんどの場合、この手術を行うことはありません。なぜなら形態的に顔面神経が残っているからです。過去20年間に 1例のみ顔面神経と頚神経わなの吻合術を適用しました。この方は約半年ほどで回復徴候がみられ、1年後には前額部と眼輪筋を除き術前とほぼ変わりなく顔の筋肉を動かくことができるようになりました。しかしながら気を抜くと顔面神経麻痺が明らかになります。通常は意図せず顔面神経機能が発揮されますが、残念ながら、この患者さまでは意識することが必要になったのです。
不幸にして手術中顔面神経が切れてしまった場合、断端が確認できれば、その場で縫合します。縫合が無理であれば、手術野の採取可能な部位から神経を取り出し(通常、大耳介神経か、大後頭神経)、これを移植します。かつて3例の経験がありますが、いずれも不完全ながら日常生活に支障のない状態に回復しています。2例の患者さまはほとんど麻痺が分からないまでに回復されました。
移植が不可能である場合、たとえば顔面神経が脳幹部からでてくる所で切断されたときなど、回復の望みはありませんので、腫瘍摘出から間を開けずに前記の吻合手術を行います。回復率は先に述べた通りです。

顔面けいれん・三叉神経痛

顔面けいれん

顔面のいずれか一方が不随意にピクピクと動いてしまう状態です。自分が意図しないのにかってに運動が起こってしまうことを不随意運動と呼びますが、顔面けいれんは顔の不随意運動です。一般に不随意運動は緊張すると運動が強くなりますが、顔面けいれんも同様です。顔面けいれんが他の不随意運動と大きく異なる点は、これが睡眠中にも起こることです。
はじめは眼輪筋(眼の周りの筋肉)の小さい動きであることがほとんどで、数ヶ月から数年で徐々に進行して、頬から口の周囲、さらには頸部にまでけいれんが波及します。つまり、顔面神経が担当している筋肉のすべてに不随意運動が起きる可能性があります。ときに不随意運動とともに耳鳴りを訴える場合がありますが、この理由は顔面神経が音の伝達に関係するアブミ骨筋や鼓膜張筋の動きを担当しているからです。自然経過のなかでまれには消失することもありますが、通常、期待できません。ひどく進行した状態では常時閉眼してしまう人もいます。また、軽度ながら顔面の動きが低下する人もいます(顔面神経麻痺)。ただし、 大切なことは生命に危険が及ぶようなことは決してないことであります。
なぜ顔面けいれんが起きるのか現在も明確な答えがあるわけではありません。ただし、大部分の例は、顔面神経が脳(脳幹)から出てくる場所を比較的小さい血管が圧迫していて、圧迫しないようにこの血管をよけてやると、顔面けいれんが治るので、外科的な治療が行われるのです。
他に治療法があるのでしょうか。かつては内科的治療として、精神安定剤や抗てんかん薬が投与されましたが、基本的には無効で、最近はあまり行われません。 顔面神経ブロックといって、顔面神経の出口(耳の後ろ)に局所麻酔薬を注射する方法もあります。これは、一次的に顔面神経を軽く麻痺させる方法であり、効 果はありますが一時的であり、繰り返す必要があります。また、ボツリヌス毒素をけいれんの起こる筋肉に注射する方法も最近試みられています。これも効果は ありますが、3-4ヶ月ごとに繰り返す必要があり、経済的にも高価なものとなります。
外科的方法の治癒率は一般に90-93%とされています。つまり、100%ではないのです。理由は、なぜ顔面けいれんが起きるのか明確な理論的裏付けがな いからであります。ただし、わたしどもの経験でも95%の治癒率があると考えていますので、ほかの疾患の治療成績をみても、かなり有効な方法と考えられます。外科的方法では手術という苦痛があるので、また、脳幹という重要な部位をみることになるので、危険がないわけではありません。したがって、手術をする 場合、本人の治したいという強い希望があって、手術をすることの危険を納得された場合にのみ適用となります。

微小血管減圧術

顔面けいれんの外科的治療法で。手術は開頭法の一つで外側後頭下開頭という方法を用います。この手術は側臥位で、手術部位を見やすくするために頭頂部を低く して頭部を三点固定器で固定します。なぜなら、手術用顕微鏡を使用した手術ですので、少しでも頭部が動いてしまうと危険だからです。耳介の後方に約7cm の皮膚切開を行います。後頭下筋群は一層ずつ剥離して、小後頭神経、後頭動脈を確認しつつ、鋏で切離します。こうすると解剖学的構造を見失うことなく安全 です。穿頭(頭に孔を開けること)は乳様突起の内側下方に行い、約500円玉程度の大きさに拡大します。硬膜(脳を包む最も外側の膜で、骨に付着してい る)は耳のすぐ後ろの出っ張った骨の側に翻転します。すると、通常は小脳がやや張り出してくるので、へらで軽く小脳を圧排して脳脊髄液の自然流出を促します。この時点で、吸引などによるテント下の急激な減圧は避けるべきです。ある程度の減圧を得てから脳脊髄液の貯留している脳槽を開放すると、容易に脳脊髄 液が吸引され、小脳を引っ張りやすくなります。こうすると、下側には下位脳神経(舌咽、迷走、副神経)がみられ、上側に向かうと聴神経がみえます。また、 深部には外転神経が波打つように観察されます。同部のくも膜を切開すると、より明瞭に各神経が観察できます。しかし、顔面神経は聴神経の内側にあるので見 にくいのです。脈絡叢、小脳片葉を手前に引いて、聴神経の下を覗き込むようすると、顔面神経が脳幹から出てくる場所がみえます。この部位を動脈が圧迫して いるので、圧迫動脈をよけて、脳幹との間にテフロンフェルト(綿のようなもの)の小片を置きます。このような微小血管減圧術は小さい開頭で行うことができ ます。開頭した部位を、以前は自家骨を返納して閉鎖していましたが、返納する骨があまりに小さいので、最近は開頭したままにしておきます。無論、筋肉、皮 膚は元通りに縫合しますので、心配はありません。また、外からさわっても骨の無いことはわかりません。

手術の危険度

もっとも頻度の高い合併症は聴力の低下です。つまり、耳が聞こえにくくなったという訴えです。一般論として、2-3%の確立で発生しますが、私どもの200例以上の経験でも2例あります。聴力測定を行うと、そのうち1例 に聴力低下が確認できましたが、もう一人の方は手術とは無関係と考えられました。再手術例は合併症の発現頻度が高いようです。数年前に他の病院でこの手術 が行われ、再発して再手術を当院で行った方がありますが、手術部位は癒着が強く、術後、けいれんは止まったものの、聴力が低下したという経験があります。
1%以下の発生率で顔面神経麻痺、髄液漏、小脳の挫傷(傷つくこと)、感染などの合併症も報告されています。幸い当院ではその経験はありません。

手術後の経過

半数以上の方は手術直後からけいれんが消失して、以後けいれんは起きません。術後1週ぐらいの間にだんだんと消失していく方もあります。2-3%の方は、 けいれんの頻度は減ったが完全には消失しない。このような方に再手術を勧める術者もありますが、手術中のビデオを見直したうえで、観察するべき部位を正確 に観察して、減圧を行っているのであれば、わたしどもは再手術を勧めていません。
再発は無きにしも非ずですが低頻度です。私どもの200例以上の経験で、3人の方が手術後半年以上してから、再発を訴えてこられましたが、いずれの方も安定剤の投与のみで再び消失するか、軽減し、コントロールできています。

三叉神経痛

通常、顔面の下半分に起こりやすく、何らかの誘引(物を食べる、顔を洗うなど)をもとに突発する、耐えがたい痛みが起こります。歯痛と思い歯科医を受診される方もしばしばみられます。内科的治療として、顔面けいれんと同様に抗てんかん薬(商品名テグレトール、一般名カルバマゼピン)が使用されますが、顔面けいれんよりも有効です。ただし、段々と効果が薄れ、その使用量が増加してきます。
明確な原因は明らかではありませんが、顔面けいれんと同じく、神経(この場合は三叉神経という顔面の知覚と咀嚼筋の運動を担当する神経)を圧迫している血管を手術的によけて、圧迫を解除すると80-90%の方は直後から痛みが消失し、薬は不要になります。痛みが残っても、薬の使用量は減少します。なかには圧迫血管が動脈ではなく、静脈のことがあり、また、小さい腫瘍のこともあります。放置しても生命に危険を及ぼす病態ではないので、治療法は患者さまとよく相談して決定する必要があります。

微小血管減圧術

基本的には顔面けいれんの手術と同様です。ただし、開頭部位がやや頭頂部よりになります。また、聴神経の上側をみて三叉神経に到達するので、下位脳神経は 見えません。小脳を軽く引っ張る必要がありますが、この時、錐体静脈という比較的大きな静脈を損傷しないように注意します。三叉神経は橋と呼ばれる脳に出 入りし、この部位を観察することは難しくはありません。むしろ、末梢がみにくいのです。多くの痛みの原因は動脈の圧迫であるため、先に顔面けいれんの手術 で述べた方法で減圧します。圧迫動脈が見当たらない場合には、原因を静脈に求め、三叉神経を全域に渡り観察して、圧迫静脈を減圧するか、切断します。これ による弊害は通常ありません。腫瘍が原因であれば、腫瘍に対する治療を施す必要があります。

手術の危険度

顔面けいれんの手術と同様です。

手術後の経過

多くの患者さま(80-90%)は直後から痛みが消失します。痛みが残る場合にはテグレトールを使用します。現在まで全く効果が無いという患者さまは経験していません。ただし、圧迫が静脈である場合、圧迫動脈が脳底動脈などの大きい血管の場合、テグレトールを必要とすることが多いようです。顔面けいれんの 再発頻度は極めて低いのですが、三叉神経痛の場合、年間数%の再発率が報告されています。当院での過去20年間の経験では、一時的にテグレトールの使用量が増えた方が1名おられますが、ひどい痛みが再発した例はありません。

頚椎疾患

頚椎椎間板ヘルニア

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頚部の椎体と椎体に存在し、椎体に加わるショックを吸収するために存在する椎間板が変性することにより、後方に飛び出して脊髄や神経根を圧迫している病態です。

頚椎後十靱帯骨化症

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頚椎の椎体の後面、脊髄の前方にある後十靭帯が、徐々に骨のように硬くなり(骨化) 通常の何倍にも厚くなり徐々に脊髄を圧迫してくる病態です。

頸部脊柱管狭窄症

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脊椎の中には脊髄を保護している管腔構造があり、脊柱管といいます。その脊柱管が生まれつき狭く、これにより脊髄を圧迫し症状を呈してくる病態です。

変形性頸椎症

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加齢変化に伴い頚椎が少しずつ変形することで骨棘という隆起病変を形成し、これにより脊柱管の中に存在する脊髄や神経根が徐々に圧迫をしてくる病態です。

症状

症主として圧迫されているものが神経根であるのか(神経根症)、脊髄自体であるのか(脊髄症)により異なります。 神経根症:一側の痺れや特定の領域の痛みや筋力の低下などがみられます。 脊髄症:両手や両足が痺れから始まることが多いです。その後、徐々に上肢の痛みや手の細かい作業がしづらくなったり(巧緻性の低下)、歩行がしづらくなったり(歩行障害)などがみられるようになります。

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腰椎疾患

腰椎椎間板ヘルニア

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腰部の椎体と椎体に存在し、椎体に加わるショックを吸収するために存在する椎間板が変性することにより、後方に飛び出して神経根を圧迫している病態です。比較的若い方に起きやすいです。

症状

比較的に急に激しい腰痛や一側の下肢に放散する痛みを体動時や安静時にも認めます。一緒に筋力低下や感覚障害も伴うこともあります。時には両下肢痛や排尿排便障害を合併することもあります。

腰部脊柱管狭窄症

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腰部での神経の通り道である脊柱管が、加齢による骨の変形や靭帯の肥厚などにより狭くなり、下肢へ向かう神経を圧迫することによって起こる病気です。

症状

安静時には症状は認めませんが、少しの間歩行をすると下肢の症状(痛みや痺れ・冷感など)を認め、前かがみになったり、休息をすると下肢の症状が軽減・消失し、再度歩行が可能となります。このような症状を間歇性跛行といって腰部脊柱管狭窄症には典型的な症状です。ある一定の姿勢を保持したりすると下肢の同様の症状を認めるときもあります。下肢の症状は、自転車や自動車を利用している最中には、下肢の症状は認めません。時には排尿排便障害を合併することもあります。

腰椎すべり症(分離すべり症、変性すべり症)

上下の椎体が前後にずれている状態で、腰椎の椎弓が分離して生じる分離すべり症や加齢により関節や靭帯がゆるくなり生じる変性すべり症があります。

症状

腰痛や下肢の痛みやしびれ、間歇性跛行を呈すこともあります。

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